インタビュー・テキスト:奥村健太郎
写真:木村和平

新作『ひかれあい』のアートワーク写真、そして収録曲「とがる」のMusic Videoの撮影を手がけたカメラマン木村和平とカネコアヤノによる対談を行ないました。
二人の出会いから、本作のコラボレーションに至るまでを語り合ってもらいました。

新作『ひかれあい』に、音楽だけでなくアートワークやMVなど多面的に深く入り込んで頂くきっかけになるはず。

泥酔して公園で追いかけ回して、初めて「気が合う」と思った

——2人が出会ったきっかけを教えてください。

木村和平(以下、木村):
カネコとは音楽現場ではなく、ファッションブランドの撮影で、モデルとカメラマンとして出会ったんです。
カネコアヤノ(以下、カネコ):
あのときは…ほぼ会話しなかったよね。
木村:
うん、ほとんどしなかった。それから1〜2年くらいして『退屈な日々にさようならを』(今泉力哉監督・2016年/カネコアヤノがシンガーソングライター「牛越あみ」役として出演している)の劇中に小道具で登場する「牛越あみ」の宣材ポスターの写真を撮ることになって、再会しました。あれは去年の夏だったよね?
映画『退屈な日々にさようならを』宣材写真
カネコ:
うん。高円寺だったよね。で、その撮影後に友達と飲んでたらバッタリ会った。
木村:
お互いベロベロで(笑)。共通の友達と居たから、みんなで飲むことになって。
カネコ:
それで公園に移動して、私気づいたら和平くんのこと走って追いかけてたんですよ。
木村:
そう(笑)。
カネコ:
でもそこでお互いに「あ、こいつイケるな」と。
木村:
物理的なコミュニケーションだったんだよね。あぁ、この人も“走れる人”なんだ、酔っ払って公園で走り回れるんだなって。

——追いかけ回してお互いを理解した(笑)。

木村:
それで仲良くなってから、カネコのアー写やジャケットの撮影を頼んでもらうようになった。だから、仲良くなったのはここ1年くらいですね。
カネコ:
去年、それまで所属していた事務所を辞めて、今のマネージャーさんと一緒にやるようになって。新しい作品を作っていくにあたって、クリエイティヴ周りのスタッフも前向きに変えていこうということになって、まずは写真を和平くんにお願いしてみようという話になり。
粟生田(現・カネコ マネージャー):
でもその時、カネコは「(和平くんは)たぶん私のこと嫌いだから撮ってくれないと思う」って言ってたんだよね。
木村:
えっ(笑)。
カネコ:
走って追いかけてたのに…。その頃の私は、基本的に嫌われてると思ってて(笑)。でもあの最初の打ち合わせの時、粟生田さんが「じゃあ後は2人で」と言ってくれたのが大きかった。
木村:
そうそう。とりあえずコンビニでビール買ったよね。
カネコ:
「粟生田さん帰ったし、1杯飲もうぜ」みたいな(笑)。私は素というか、いつも通りの自分を撮ってもらえたらいいなと思ってた。
木村:
僕もこういう風にしよう、みたいなのはなかったかな。自然な表情を撮るのは僕が普段からやろうとしていることだし。とりあえずビール飲んで、散歩しながら撮りましょうという感じで。撮影の時はいつも特別なことはしてないし、させてないですね。

——それでまずはジャケットやアー写を撮るように。

木村:
はい。カネコが『ひかれあい』の前に出したカセット(『朝になって夢からさめて』)のアー写を撮ったんですけど、あの写真が僕の中で「これだ」という感じがして。あの撮影のときに、やっと感覚が共有できた気がしたんです。その時も屋上で「風が気持ちいいね」「あ、そこ座って適当にしてて〜」みたいな撮り方でした。
カセット『朝になって夢からさめて』アーティスト写真

——どういうシチュエーションかを決めすぎずに臨んだと。

木村:
というより、決めることがないんですよ。やりたいことが単純にフィットしてるというのが大きいと思います。
カネコ:
うん、何もしてないもんね。遊んでただけ(笑)。
木村:
あの時にお互いのイメージが合ったから『ひかれあい』の写真もやることになった。あれって、カセットのアー写撮影のときに撮ったやつだっけ?
カネコ:
雑誌じゃない? 
木村:
あ、そっか。今回のアルバムの歌詞カードで使っている写真は「ROCKET」というグラビア誌用の写真とカセットテープの写真を同じ日に撮ってた中での1枚。今のアー写だけはMVの撮影のときに撮り下ろしたものです。
粟生田:
『ひかれあい』のアートワークに関しては、もともとカネコ本人の姿が映った写真を使う予定ではなかったんです。むしろここ数作品では「女性のシンガーソングライターの典型みたいだからやめておこう」と話していた。でも木村くんがInstagramに上げていた写真を見て、ね。
木村:
僕は普通に「本日の撮影です〜」ぐらいの気持ちでアップしたんですよ。
粟生田:
それを見て「あ、これジャケットにしたい」って思って。それで、僕がカネコとジャケットをどうするかの話している時に、和平くんが上げてた写真がとても良かったよねと言ってみたら、カネコも「私もいいなって思っていた」と。さらに、和平くんに言ってみたら「僕もそう思ってた」って(笑)。
カネコ:
すごく自然な流れだったよね。
2nd EP『ひかれあい』ジャケット写真
「和平くんに撮ってもらうようになってから、笑えるようになった(カネコ)」

——そうやって撮影を重ねるうち、今回の「とがる」のMVを木村さんに頼む流れになるわけですね。

カネコ:
このMVは最初「とにかく、走りたい」って粟生田さんに相談したんです。ある仕事で屋上で撮影したときに、私が走ってる姿を和平くんがインスタグラムのストーリーにあげていたのを見て「あ、これでMV撮りたい」と思って。で、その後、和平くんが私のライブに来てくれてたときに動画を見せたんです。「こういうMV撮りたいんだけど、誰かいい人いないかな?」って。
木村:
めっちゃ遠回しにね(笑)。その時僕はお酒も入ってたこともあって「僕が撮ろうか〜」って答えた。
カネコ:
それでびっくりして。「えっ、いいの?」って。で、とりあえず今度打ち合わせしよう、ってことに(笑)。
木村:
その夜、僕も冷静になって考えました。僕は映像を撮ることはできるけど、編集の知識はなくて。でも頭の中にMVの全体像がぶわっと湧いてきて、これはできるなと思ったので、後日改めてお願いしますと連絡しました。

——どのように撮影・編集したのですか?

木村:
撮影は一番のサビ部分を除いて、全てiPhoneで。一番のサビは特殊なカメラを使いました。編集作業は大学の同期に頼んで、1日がかりで使い方を教えてもらって進めました。

——実際に一緒に撮影をしてみていかがでしたか?

カネコ:
楽しかった!でもめっちゃ走ったから、筋肉痛が本当にキツかった(笑)。脚も腰も二の腕まで痛くなって。でも、自分のやりたいことにこんなに付き合ってくれるなんてありがたいなぁって。
木村:
撮影は2人だけでやったんです。粟生田さんが思い切って任せてくれたのが本当にありがたかったですね。他の現場では被写体と2人きりになるなんて、ほぼないですから。むしろスタッフが十人くらいいる中で撮るのがふつうで。2人きりだと、友達と遊んでる感覚で撮れるんですよね。
カネコ:
いいもの作りたいというのも、2人だから色々言い合えたのかもしれないです。
木村:
「このシーンだけ撮りたいから、バイト前の1時間だけ来てくんない?」って撮ったり(笑)。ほかのアーティストじゃ絶対できないやり方ですよ。
YouTube:カネコアヤノ 「とがる」
Director:木村和平
粟生田:
今回の作品は特に「和平くんと一緒に作った」という感覚が強くて。歌詞カードをCDに入れてパッキングする作業があって、本来は工場でやるものなんですが、色んな事情から手作業でやらないきゃいけなくなって。それで「よし、3人でやろうぜ」って(笑)。
カネコ:
3人で喋りながらやったね。
CD組み立て作業風景
カネコ:
ヤバかったよねアレは…合宿みたいだった(笑)。
木村:
でも、ああいうのが大事だと思う。
粟生田:
今回は本当に2人が一緒に作り上げたものだったから、そういう最後の工行程まで一緒にやるのがいいんじゃないかって思ったんだよね。
2nd EP『ひかれあい』アートワーク

——お互いのどんな部分に惹かれ合っていると思いますか? 

木村:
”光に向かっていくイメージがある”とか、花が好きとか、犬がかわいいとか。そういう、感覚的なところがとても似ていると思う。
カネコ:
よく取材で「私はまさに寝るっていう瞬間に『走るイメージ』がブワーッて来るんですよ」とか「光に向かっていって逆光の中に消えてしまいたい」とか「木を登りたい」って言うんです。するとまぁ、当然「はあ……」という反応を返される。「それってどういうことですか?」って。
木村:
でも2人の間だと、それを言えばわかる。「ああ、それね」って。さっきも、若いママが自転車に幼稚園くらいの男の子を乗せてて、ママに気づかれないように子どもとコミュニケーション取りたくなるよねって話をして。
カネコ:
変顔したりね。
木村:
そういうのがわりとスッと入ってくる。カネコも僕も、子どものこころが残っているんだと思う。小さい頃は泥んこになって遊んでたはずなのに、義務教育の中でだんだんと制御するようになっちゃうのかな。「アスファルトで寝たら汚いでしょ」って言われて。
カネコ:
服が汚れるって…。そんなもの洗ったら落ちるし、楽しいことやろうよって!(笑)
『さよーならあなた』アーティスト写真撮影アウトテイク

——お互いの作品については?

木村:
カネコの歌で一番好きなのは、切実なところ。生活で感じたきれいなもの、ことを、自分なりのシンプルな言葉で表現しているところが好き。僕も写真の最終目標として、エッセイみたいなことをやりたくて。カネコはそれができているなって、彼女の歌を聞くと思います。スタイルとして、新しい、誰もやっていないことをやろうというアーティストが多い中で、あくまでカネコは生活の範囲内のことだけを歌う。それって、すごいことですよ。実はけっこう影響を受けてます。
カネコ:
(照れ笑いで黙り込む)
木村:
僕も一時期は作品作りにおいて、誰もやっていないことや新しい表現に手を出したくなったこともありましたが、カネコみたいな「切実なこと」を表現しているアーティストを見て、僕はやっぱりそっちのほうが好きだな、って立ち返ることができた。今僕が普段よく会う人、よく見る景色で作品を作ろうとしているのは、カネコの影響が強いと思います。

——カネコさんはいかがですか?

カネコ:
和平くんのことも彼の作品もピュアに好きなので、なんと言っていいのか……。とりあえず、仲良くなれて嬉しい(笑)。思ったままに話せる人って意外といなくて。撮影の時も日常でも、ずっと笑うのが苦手だったんです。でも和平くんに撮ってもらうようになってから、笑うことへの抵抗がなくなって、それが嬉しい。『ひかれあい』のアートワークや「とがる」のMVを見て、マジで笑い方が変わったなと思った。
2nd EP『ひかれあい』アーティスト写真アウトテイク
「撮影後から前向きなやる気にあふれていて、今は嬉しいことしか考えてない(木村)」

——もともと「アーティスト」と「カメラマン」ではない関係から始まっていることも大きいのかもしれませんね。

カネコ:
そう。友達として普通に仲良くなって、私もゲラゲラ笑うようになって、その瞬間をパシャ、みたいなことだもん。
木村:
それだけの話なんだよね。僕はひとを撮るとき「本当に面白かったり楽しかったりして笑ってる顔を撮りたい」と思ってるんですよ。笑顔が全てとは思わないですが、僕にとってはとても大切な要素です。
カネコ:
自分自身も変わったと思う。やりたいことをやれるようになったし、明るくなった。自分の考えや性格が変わるタイミングに出会えたし、その「変わりつつある私」を和平くんは撮ってくれた。
木村:
今でもたまに見返してるんですけど、3年前に初めてカネコを撮ったファッションの写真がヤバくて。表情がこわばっているし、目が全然違う。僕が上手くコミュニケーションとれてなかったのもあると思うけど、目も見てくれなかったですからね(笑)。
カネコ:
あの時は本当に目を見れなかったんですよ。

——それが今は一緒に走り回って撮影できるように。

2nd EP『ひかれあい』アーティスト写真アウトテイク
カネコ:
そういうのはダメなことだと思ってたんです。環境がそうさせてたのかな、誰かに怒られるってずっと思ってた。最近やっと、歌いたいと思ったら歌うし、走りたいと思ったら走るわ!って思うようになってきた。
木村:
わかる。僕も高校生までは居場所がなくて、自分をすごく押さえてた。それが東京に来て気の合う人と知り合う中で、解放されていく感じがあった。

——お互いに作品によって本来の自分に戻りつつあるんですね。では、これから作品を一緒に作る上で、課題に感じたことはありましたか?

木村:
今回の仕上がりについてはやりたかったことは出来たな、という実感があります。もっとこうしなきゃ、というよりは、前向きなやる気に溢れていて。「とがる」のMVを作らせえてもらえたことで、めちゃくちゃ映像をやりたくなったんですよ。今は嬉しいことしか考えてないなぁ。
カネコ:
それは最高だ!嬉しいことしか考えたくない。嬉しいことしか考えたくない! ……2回言っちゃった(笑)。私も、過去に暗く過ごした分を取り戻している感じがあるよ。
木村:
もっと進化して映像も頑張ろうって思った。僕の写真を見てくれていた人も「木村和平には何が見えているか(映像に)詰まっていたね」って言ってくれたし。写真を撮っているとよく「これが映像ならいいのに」って思うんですよ。身体が反応してシャッターを切る1秒前と1秒後にも大切なことが詰まっているなって。それが映像だと自然と撮れるからおもしろいし、怖いところだし、だからこそ興奮するなぁって。動いているものを止められるのが写真の素晴らしいところで、そこを追求していきたいですが、映像ならではの面白さを体感できたことがとにかく嬉しかったです。ほんと、いい機会をくれてありがとうございます。
カネコ:
いやいやこちらこそ、ありがとうございます。って堅いな!(笑)
2nd EP『ひかれあい』アーティスト写真アウトテイク