グレープフルーツ

――ゴキゲンなカーソングから人気曲の「グレープフルーツ」につなぐという流れがバッチリ決まった。この曲はなんといっても〈いまのわたし 甘い砂糖と苦い グレープフルーツみたい〉というサビのフレーズに、みんなキュンときますね。

カネコ 私は小さい頃、グレープフルーツに砂糖をかけて食べていたんですけど……食べていましたよね?

――ぼくも最初はそうやって食べてた。

カネコ でも、同じ年くらいだとそういう人がいなくて、びっくりしちゃった。私はそれが当然だと思ってこの曲を作ったけど、「なんでグレープフルーツと砂糖なの?」と思った人が多かったみたいで、「知らない」とか言われちゃって。だから、みんなそうやって食べてみて!って思う。

――自分の気持ちをこういう風に表現したソングライターはいないでしょう。

カネコ 嬉しい。よくこのフレーズが出てきたなって、自分でも思う。

――スッと出てきたの?

カネコ うん、そんな感じ。前の事務所を辞めることになって「なんでこんなことになっちゃったんだろう?」という疑問と、「これからどうなっていくんだろう?」という不安がごっちゃになって、音楽はやめたくないけど、どうすれば続けられるのか、やり方が分からなくて……そんな中でよく作ったと思う。

――カネコさんが岐路に立ったときに生まれた重要曲。

カネコ キーになってますね。この曲には本当に救われたし、事務所を辞める前の最後のライブを名古屋でやったとき、この曲を歌いながら大号泣しちゃって。でも、私はそれから大きい声で歌えるようになったんです。それまでは歌い方もよく分からなくて、こんなにキーが高くて声を張る歌は今までになくて……よく書けたなっていうか、書いてくれてありがとう、自分(笑)。「この曲を生んでなかったら今の私はない!」と思うくらい当時は大切な曲だった。

――これまでの自分への決別の歌でもある?

カネコ 〈ひとりになりたいこともあるしね〉っていうところは、「わたしだけの世界だぞ!」みたいな感じで歌っていた。

――不安もあるけど、それを振り切っていくぞ!という想いが入っているんですね。

カネコ 〈恥ずかしいそれはかっこいい〉と書いたのは、笑うのが恥ずかしいという気持ちがあったんですよ。そういうコンプレックスを初めて歌にしたことで、今はダサいと思っても、やってみたら変わるかもしれないという前向きな気持ちを持てるようになった。それはこの歌のおかげかなぁ。今やるべきことをやっていたら大丈夫だと、この曲を作って思えた。

――笑えなかったというのは、笑うことで媚びていると思われるのが嫌だったの?

カネコ 単純に、コミュニケーションが今以上にすごく苦手だったんですよね。目の合わせ方も分からないし、なんて返答したらいいのか分からないレベルだった。インタヴューで、分からないことを「分からない」と言ったらいけないと思っていたし、そういうことに怯え過ぎていて、返答しなきゃいけないと焦れば焦るほど冷や汗が出てくる。今はこうやって、どういうことを歌にしたいとか言葉にできるけど、当時はそれが自分の中で確信的になっていなくて、本当に無意識でしか曲を作っていなかったから、インタヴューで曲のことを訊かれても言葉が出てこない。

――逆に「どう聴こえました?」って訊き返したかった?

カネコ そうそう、逆に「大丈夫でしたか?」って訊きたい感じだった。もう絶望って感じ。社会性もないし、このままだと孤独死かも……なんて思ってたから、この曲ができて本当に救われた。

――そこまで精神的に追い込まれていたとは……「グレープフルーツ」は、今につながる最重要曲なんですね。ライブでやったとき、最初から手応えはありましたか?

カネコ この曲を作ったとき、私の中では確信があったけれど、最初はお客さんも「?」って感じだったし、(現マネージャーの)粟生田(悟)さんも「え、これリード曲にするの?」という感じだった。今はこの曲に私が追いついてきて、お客さんにもちゃんと伝わるようになってきました。

――今やライブに欠かせない代表曲のひとつになっている。

カネコ うん、なっているんですけど、でも今は弾き語りで全然やってなくて。

――えっ、なんで?

カネコ それは「祝日」ができてしまったからなんです。

――カネコさんの中で何が起きたんだろう。では、最後にゆっくり「祝日」について聞かせてください。

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