――ニューアルバム『燦々』の完成、おめでとうございます。以前の取材でカネコさんは、「『祝祭』がものすごく満足できる作品だったから、それに匹敵するアルバムができるかどうか、ちょっと不安もあった」と言ってたでしょう。ぼくもドキドキしながら『燦々』を初めて試聴したとき、「やった! 見事に『祝祭』をクリアする大傑作を作ってくれた!」と一点の曇りもなく思えて、興奮しました。
カネコ よかった~! ありがとうございます。
――それでは、収録された全12曲について1曲ずつ詳しく訊かせてください。まず「花ひらくまで」、これはアルバムのイントロダクション的な役割を担う短い曲だけど、最初から1曲目に置こうと思って作ったの?
カネコ ううん、全然。『祝祭』を作ったすぐ後にできた曲で、1年ぐらいずっと誰にも聞かせず、どういうアレンジにしようかとかも全然考えていなかった。それをみんながああいう風にしてくれて、「あ、これが1曲目で始まったらいいなぁ」って。最後の三声になるところは、「絶対そうしたい!」ってずっと言ってたんだけど、そこ以外はまったく。
――カネコさんのひとり多重コーラス?
カネコ そう、これは私が三声重ねています。
――それがとても効果的です。あとイントロの最初に鳴るギターの透明な音色と、その一音を長く伸ばすところ、あれがすごく印象的で。
カネコ いいですよね。
――ギターとバンジョーを重ねるアイデアも素晴らしい。
カネコ うん。元はこういう感じだけど、フェスとかで意外と壮大になったらいいですよね(笑)……っていうのをみんなで想像しながら録ってました。
――この曲に限らず、今作の特徴だと思うんだけど、地声から裏声の間を行き来する技を多用しています。そこにいろんな意味を込めて使ってるな、と。
カネコ そうですね。私の癖が出まくりというか、自分でもどうやって歌ったらいいか分からない曲が多すぎて。そのひとつかな? 裏声はいっぱい使ってる。
――こんなに全編で裏声を使ったことって、これまでにないんじゃないですか?
カネコ あんまりないかも……ないですね。裏声も少し前まで出せなかったから。それがどんどん、自分が作ってるのに、キーが地声だと届かない曲が増えてきちゃって、それでいたしかたなく裏声が増えてきた。だから裏声強化で。でもそれは「さよーならあなた」辺りからですけど、作る曲の幅が変わってきたかなとは思う。これとか特に。
――カネコさんは地声から裏声に移るところが本当にいいんですよね。ファルセット(裏声)に含まれる“切なさ成分”の含有量がすごい。
カネコ 嬉しい。上手にできればいいんですけど。ファルセットは今回けっこう多用してますよね。
――ラスト・ヴァースの〈咲くのに時間がかかってる/チューリップ眺めて/温かいお茶をすするのです〉っていうラインがいいなぁ。
カネコ ほんとですか?(笑) なんかね、これはいつ書いたんだろう。
――歌い出しのところで〈秋口みたいな春のはじめ〉って言ってる。
カネコ その頃に書いたんですよね。そのときに、冬の終わりというか春の前にチューリップ飾ってて、いつもだったらパカーってすぐに開くんだけど、全然咲かなくて。そのときたぶん寒すぎて、たしか4月ぐらいに雪が降ったんですよ、去年ぐらいに。そうそう、それで書いたのかな。
――最後のラインで〈温かいお茶をすするのです〉って言うのが、のどかでいいなぁ。
カネコ いいですよね、ズズズって感じで(笑)。
――その後に男声のカウントが入って「かみつきたい」になって、曲調は変わっても、のどかな感じが続く。ちょっと余裕があるというか。
カネコ たしかに。「おっ!?」ってなりますよね。「おっ!?」っていうのがほしくて。