りぼんのてほどき

――次の「りぼんのてほどき」、これは超名曲だなーって、最初に聴いた瞬間から思いました。

カネコ やった!

――個人的には、このアルバムでいちばん好きな曲ですね。

カネコ いいですよね。私も気に入ってる。

――全編パワー・ワード、キラー・フレーズの嵐で。繰り返し歌われる〈なんとか生き抜いた〉っていうラインがまず、すごいパワー・ワードだし。

カネコ そう言いたくなるときもありますよね。

――こういうフレーズって、どういうときに出てくるんだろう?

カネコ どうなんですかね。いやぁ、どういうときだろう。何かなんとなく出てくるんですよね。でも、めっちゃ遊んだ日とか、誰かとめっちゃケンカした日とか、歌詞にも書いてあるけどすごく泣いた日とか、そういう極端な出来事があったときの反動で出てきてるところはあるかもしれない。

――〈涙とかきわけた人ごみ〉みたいな場面があったんですね?

カネコ そうなんスよ……。いい曲。アレンジも気に入ってる。

――イントロとアウトロで聞こえるサイレンみたいなギターの音に、まず耳を奪われる。ヒューンっていう音。

カネコ そうそうそう。鯨の鳴き声みたいな林くんのギターの音。Ebowという機材を使ってる。そういえば、レコーディングでこれをいちばん最初に録りました。

――いちばん最初のヴァースから劇的ですよ。〈目の前を過ぎてゆく車のボディに私が映っている/さっきまで泣きじゃくってた/パーティーのクラッカーみたいに〉。いきなりドラマが始まってる。

カネコ たしかに。

――で、次のヴァースが〈なんとか生き抜いた〉で始まるから、ウワー! ってなる。それから最強にキラーなラインが来る。〈プレゼントボックスのりぼんを/体のかたちが変わっても/焦ってほどいてたい〉、このフレーズにガーンと来ない人はいないでしょう! 1番の歌詞を聴いただけでぶっ飛ばされる。

カネコ ははは! 嬉しい! いやぁ、嬉しいですねえ。これは気に入ってる。

――「こんなのよく思いつくなぁ!」という驚きを通り越して、「思いつきなんかじゃないぞ、この3行のすごさは」って震えがくるぐらいの天才的なフレーズ。

カネコ ねー?(笑) なんか、気に入ってますね。でも、プレゼントとかもらうと、いつでも嬉しいですよね。「わー! ここで開けていい?」みたいなことをずっとしていたいな。箱の包装紙をすごい雑に開けちゃう感じとかって、なんか愛おしいなと思って。

――若いうちは自然にはしゃいでいても、だんだん年齢を重ねていったり、いろんな経験をしたりすると、「あんまりはしゃぐのもはしたない」って落ち着きがちだけど、この曲は「大人だからって、そんなに落ち着かなくていいんじゃない」って言ってくれてるような気がして。

カネコ そうそう、そういうことかもしれない。「大人ぶらなくてもよくない?」みたいな。年齢とか、体の大きさとかでいえば大人かもしれないけど、精神的には人それぞれだし、別にそうなれてない人が大人ぶらなくてもよくね?って、すごく思っちゃうから。私は特にそうだし、そう思ってますね、ほんとに。

――この曲は、男のぼくでもハッとするから、女の子たちには刺さるんじゃないかな。

カネコ ね、そうだと嬉しいな。私、喫茶店でバイトしてるときとかに、ご飯を食べながら携帯いじってる人とか、ご飯を食べながらパソコンでめっちゃ作業してる人がいるのを見てて、私にとって喫茶店はボーっとするところだったりするから、それがなんか不思議だなー、って思っちゃって。〈あなたは窓の外を眺めようとはしない〉みたいな一節は、そういうところからも来てるかも。私はそういう時間を味わいたいから。喫茶店ではのんびりしたいし、友達といるなら友達の話を聞きたい、っていう気持ちがすごくあるから。ご飯を食べるならもっとゆっくり味わってくれよ、って思うし。こういう人たちって、本当に偏見になっちゃうかもしれないけど、ちょっと大事なことを忘れてる部分がありそうだなー、って。

――〈あなたは窓の外を眺めようとはしない〉って、やっぱりドキッとするフレーズだからね。またその前に〈あーあーあ〉っていうカネコさんの声が入るのが効いてるんだよな。

カネコ 嬉しい。んー、この曲は気に入ってますね。

――いつぐらいにできた曲?

カネコ いつぐらいですかね……レコーディング前のけっこうギリギリにできたかも。レコーディングに入る1ヵ月ぐらい前にプリプロを週一ぐらいでやってて、プリプロ始まるぞっていうときに持っていったのかな。できたてでしたね。最初キーが高すぎて、キーを下げるためにコードを変えたりもして……コードが難しくて、っていうか押さえづらくて。気に入ってるけど、ライヴで弾けるか不安(笑)。

――これも地声と裏声の使い分けに工夫があって、1番のセカンド・ヴァースの〈読みかけの本が溜まっていることを思い出した〉のところで〈ことを思い出した〉って2回繰り返すでしょう? 最初の「思い」は裏声で、次の「思い」は地声なんだよね。2番の〈あなたは強い人 あなたは強い人〉と繰り返すところでも、最初の「強い」は裏声で、次の「強い」は地声なんだけど、いちばん最後のヴァースで〈輝きの果てには 輝きの果てには〉って繰り返すときには、最初の「輝き」は地声で、次の「輝き」は裏声に変わるんですよ。

カネコ あー、たしかに(笑)。

――ここだけ地声と裏声の順番が逆になってて、「これはすごいぞ!」と思った。細かく聴きすぎで引かれるかもしれないけど(笑)。

カネコ ははは! 嬉しい。でもそんなの全然意識してなかったですね。

――ほんとに? そうなんだ……でもこの曲は最後に〈輝きの果てには 輝きの果てには/ただゆくしかないのさ〉って、人生とはそういうものだと一言で言い表してるようなフレーズで締めくくられるから、このラスト・ヴァースはすごく重要で、それだけに、ここで地声と裏声の順番が逆転することにも、何かすごい意味を勝手に見出してしまった。

カネコ たしかに。全然意識してなかったけど、裏声の使い方とかでドラマチックになってる気はする、たぶん。今回、いろんな曲でそれをやってるから、それはあるかもしれない。

――同じ言葉でも、地声で歌うか裏声で歌うかの違いだけで、その時々の感情の高まりや気持ちの変化を絶妙に表現してる。これはすごいテクニック。

カネコ 嬉しい。いやぁ、なんかすごい……(笑)。何も意識していないっスね。

――それを意識しないでやってるのが、カネコさんのすごいところ。

カネコ でも、今回はそういう風に人に言われて気づくことが多いですね。「なるほど、たしかに」って。

――この曲でも〈ただゆくしかないのさ〉って言った後に、ギターが「そうだよね」とうなづくように、サイレンみたいな音で応えるところとか、いいなぁ。

カネコ あー、あれはカッコいいですよね。でも林くん、ライヴでどうするんだろう(笑)。

――あの音がないと淋しいよね。

カネコ うん、あの音がないと淋しいけど、「タッタッタッタ」っていうギターもないとちょっと淋しいし。どうするんだろう。

――そこはカネコさんのギターが頑張ってフォローするんじゃないの?

カネコ そうか。そうなのかな……?(笑)

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