――次の「光の方へ」、これは11月15日公開予定の映画『わたしは光をにぎっている』(監督:中川龍太郎 主演:松本穂香)の主題歌として書き下ろした曲ですね。
カネコ そうです。
――映画主題歌を書き下ろしたのは初めて?
カネコ そう。前に今泉力哉監督の『退屈な日々にさようならを』(2016年)っていう映画で、私の同じタイトルの曲が主題歌になったことはありますけど、それは元々あった曲だから、今回はそのときとは違う嬉しさがありましたね。
――これは「僕」という主語を使っていて、「僕ら」とも言ってるし、男の子目線の歌なのかな、って最初はちょっと思ったんだけど。
カネコ あー、どうなんですかね。
――そうでもない?
カネコ うん、そういうのはもう全然。性別は基本的にどっちでもいいって感じですね、私は。歌にハマれば、「私」でも「僕」でも「俺」でもいいかな、と思ってて。メロディーが「僕」にハマったから、これは「僕」なんだ! って思って「僕」にした。
――「あれ? 主演は男の子だっけ」と思ったら、主演は松本穂香さんだし、映画のエンディングに流れるんだから、男の子目線の歌ということでもないんだなと。
カネコ うん、そう。同世代の子の自分探しみたいな話で、たぶんね、主人公の女の子も言いたいこととかあるはずなんですよ。でも、自分があんまり意見を言えなかったときとか、自分が別に何かやりたいわけじゃなかったとき、やりたいことを見つけたときのこととか、私の中ですごいカブって。だからそんなに書くのも苦労せず、「私と一緒だ!」みたいな感じはありましたね。
――過去の自分とぴったりハマったという感じなんだ?
カネコ そうですね。監督の中川さんも、私よりちょっと上ですけど、まだ二十代で、私と同世代といえば同世代だから、その表現がすごい上手っていうか、私たちの世代は、どこに行けばいいのか分からなくて、別にやりたいこともなくて、でも何者かにはなりたいような気がするし……みたいな人がたぶんめちゃくちゃ多い世代なんですよね。
――村田さん(担当マネージャー)も、この前お話ししたとき、そんなことを言っていましたね。大学を卒業した後、そういう感じで東京に出てきた、って。
村田 そうですね。周りもなんかそういう子が多いし、何か目的があって、というわけではなくて、ただなんか「やりたいことって何だろう?」って思いながら生活してるというか、その中で「楽しいこと、何かないかな?」って探してる。だからこの映画を観ても、主人公の女の子の気持ちはすごく分かります。今は言いたいことも言いづらい環境にいるような気がして。ネットとか、世の中の空気とか……。
カネコ そう。主人公の女の子はしゃべるのがすごい苦手な子で、映画の中で「人としゃべらないことで自分を守っている」的なことを言われるシーンがあって、でも、「そんなこと言われても……」って感じですよね。たぶん図星だし、その通りなんですけど、「そんなこと言われても!」ってなる。
――2番のファースト・ヴァースの〈靴のかかと 踏んで歩くことが好き/潰れた分だけ なぜか愛おしくて〉とか、〈僕だけの命 チューブのチョコレートみたいに/けち臭く 最後まで〉とか、こういう表現は本当に“カネコアヤノ節”という感じがしますね。
カネコ そうかなー(笑)、なんかボロボロの靴とか愛おしいですよね。
――ボロボロになってても捨てられない。「むしろ好き!」ってなる。
カネコ そうそう、「やっぱ、これ履いちゃう!」みたいな。そういうのが好きですね、私は。
――チューブの中身は残さずに出し切りたい派?
カネコ そうそう、歯磨き粉とかもだけど、出し切りたい(笑)。
――残して捨てたらもったいないもんね。
カネコ うん、マジでもったいない。しかも、それで最後の一絞りが出たときって「嬉しい~!」ってなる(笑)。
――1番のサビのヴァースの1行目で〈たくさん抱えていたい〉と言ってるでしょう。何をたくさん抱えていたいのかな?
カネコ なんでしょう? 私の中では、それこそ人を大切にしたい気持ちだったり、考えてることとか、笑えるようになりたいとか、そういう願いとか祈りみたいなことなのかなぁ。それを掌で掬うようにしても、指の間からこぼれ落ちていっちゃうじゃないですか。それをこぼれ落ちないようにしたくても、どうしてもいっぱいいっぱいになっちゃって、走って逃げたくなるときもあるし。
――〈隙間からこぼれ落ちないようにするのは苦しいね〉って、そういうことなんだ。これもすごく印象的なフレーズ、「するのは~」のところで裏声になるんだよね。それがまた苦しさを絶妙に表現してる。
カネコ そう(笑)。どうしてもみんな、いっぱいいっぱいになっちゃいますよね。
――間に入るハンド・クラップが、そういう葛藤を応援してるような感じに聞こえる。
カネコ 最後がむっちゃ開けるから、すごい好きなんですよね、あのアレンジ。
――そうそう、エンディングに近づくにつれてハンド・クラップも高まるんだよね。
カネコ ワーッ! ってね。そんなに苦しい曲じゃなくなるから。
――コーラスもすごくいいなぁ。
カネコ そう! コーラスがめちゃくちゃいいですよね。コーラスとハンド・クラップが後半に入ってくるから、めちゃくちゃパカーン!って、本当に光みたいな感じになる。
――本当に光の方へ行けそうな気持ちになるね。
カネコ うん。ウッドベースもすごくいいし。なんかほんとあったかくて。
――クレジットを見たら、本村くん、アコーディオンまで弾いてる。
カネコ そうです! 本村さん、いろいろやってる。このウッドベースがすごいカッコいいなぁ、って思ってて。そうだ、ボンゴとかも最後に入ってるのか。
――カネコさんが叩いてるんだ。盛り上がるよね、最後。
カネコ いいですよね。ウッドベースは気に入ってる。
――1番のファースト・ヴァースの4行の頭を全部「あー」って言ってから歌い始めるところも、すごく効いてる。
カネコ あー! これね。「あー」って。
――最初に曲を作ったときから、そうなってたの?
カネコ そうですね、はい。
――この曲もそうだけど、今回は他にも、こういう風に歌い出しのところで「あー」って言ってる曲がたくさんあって。
カネコ たしかに! 多いですよね。
――それがキュンとなるポイントになってるんですよ。
カネコ あ~、よかった(笑)。
――「チューブのチョコレート、あ~、みたいに」とか、こういう風に入るのがドキッとする。