――次の「車窓より」、これも名曲だと思うんだよなぁ。
カネコ 嬉しい。これはデモテープでは、♪タラタタンタンタン~って、私がアコギで、ずっとルートで下がってるだけだったんですけど、アコギを無しにして、♪ホワホワホワホワ~みたいな感じにした。
――ちょっとサイケなリヴァーブのかかった透明感のあるギターの音色が、海の底にいるみたいな感じに聞こえる。
カネコ そう。私がアコギで弾いてたルート弾き(コードの基準となる根音を弾くこと)で下がっていくのとかは、本村くんがベースでやってくれて。あと、真ん中でドラムだけになるんですけど、あそことかもすごいカッコいい。
――カッコいいね。バスドラが心臓の鼓動みたいに聞こえる。
カネコ そうそう、♪ドッドッドッていう。あれ、いいですよね。
――この曲のドラムは、命のビートっていう感じがする。
カネコ 心臓みたいなビート。カッコいい!
――新幹線の中にいるんですよね。
カネコ そう。おにぎり食べてる。
――1番のファースト・ヴァースの2行目で〈君からもらったチョコレート2枚〉、4行目で〈君からもらったチョコレート苦い〉って韻を踏んでる。
カネコ そうそう(笑)。
――「苦い」って言うときの歌い方が、ちょっと切なくて、情景が浮かぶ。
カネコ ♪スポットライトから~降り注ぐ憧れと~。
――そこもすごくいいなぁ。〈スポットライトから/降り注ぐ憧れとバンドの正しさよ〉って美しいフレーズだなと思う。背筋がピンと伸びてる感じ。
カネコ そうですね。
――〈恋に似た 何かだな〉というのは、カネコさんの実感?
カネコ 実感だし、バンドだとはもちろん思ってるんですけど、やっぱりバンドじゃないといえばバンドじゃないから……ないけど、バンドなんですけど。
――いやぁ、バンドでしょう。
カネコ そう。だからやっぱり、この運命感とか……なんていうか、絶対感って、何よりも正しい。バンドって、消えちゃいそうでカッコいいなー! っていうのはすごく思ってて、ずっと。
――カネコさん、言ってたよね。「来年もこの人たちとバンドできるかな?」みたいな思いがあるって。
カネコ そうですね。やれるとは、もちろん信じていますけど。でもなんか、恋とかもそうじゃないですか。
――たしかに。そうだよね。
カネコ 「バンドを失いたくないなぁ」っていう思いは、私の気持ちの中のすごい上位にあるから。
――ひとり欠けても困る、っていう感じのメンバーになってるもんね。
カネコ うん、困る。なんか友達のバンドのライヴとか観に行くと、「は~、早くバンドでライヴしてーな!」みたいな気持ちになる。
――本当にバンドが好きなんだね。
カネコ そうですね。バンドが好きですね。
――カネコさんは弾き語りがすごくいいから、ひとりでも全然できるんだけど。
カネコ あ、はい。
――でもやっぱり、こういう風にバンドでレコードを作って、ライヴもやるというのが似合うし、弾き語りとバンドと両方ほしい。
カネコ そうですね。もちろん両方とも同じくらい大事だし、でも「楽しい」っていう言い方をすると、私はバンドが楽しいんですよね。だからこそ「儚いなぁ」と思って。
――サビがまた素晴らしい。
カネコ ほんとですか? やったー!
――〈普通じゃいれないよ〉というフレーズで各行の前半を統一して、後半のフレーズの最初の2行は〈今日は帰れないよ〉だけど、あとは1行ごとに変わっていく。「優しくなれない」って思ったり、「傷つけたくない」って思ったり、「早く帰りたい」って思ったり、「そのままでいいよ」って思ったり、心が行ったり来たり揺れ動く様子が、ものすごくヴィヴィッドに伝わってくる。しかも、おにぎりを食べたり、チョコレートを齧ったりしながら、そう思ってるというのが、いいなぁ。
カネコ 嬉しい。でも、どうなんでしょうね。新幹線の中で思ってることなのかは分からないけど。山元さん(cinra.net編集者)にも言われたけど、急に飛ぶっていうか。
――「目の前のことを話してると思ってたら、突然内面の抽象的な概念の話になったりして、意識がポンポン飛ぶ」みたいなことを山元さんは言ってた気がする。あ! そうか。この歌詞のすべての意識が必ずしも新幹線の中とは限らないのか。
カネコ うん、そう思ったりもしますね。
――うーん、なるほど! その後のヴァースで〈身体の変化発見次第/わざわざ報告させてよ ねぇ〉って言うところで、またドキッとする。
カネコ なんか、「ホクロが増えた」とかって、誰かに言いたくないですか?
――あー! なるほど(笑)。
カネコ 「あ~、ここにホクロできてる! 私、誰かに言いたい~!」みたいな(笑)。
――こういうフレーズがポーンと入ってくるところが、“カネコアヤノ節”の神髄だと思う。その次のラインで〈お気に入りのマグカップが割れた/その日から変わってく〉って言うところで、ちょっとイヤな予感が走る感じ。
カネコ フフッ、そうですね。でも、逆に捉えると、それで新しいコップを買えるわけですよ。
――(爆笑)そうか! 良い方に変わっていくかもしれないんだ。
カネコ そう(笑)。まあ、割れたカップがお気に入りだったらちょっと辛いけど、もっと好きなやつを買えるかもしれないし。
――気は持ちようで、物事は受けとめ方次第だと。その後に〈かなりどうでもいい話〉って言ってるし。
カネコ (笑)
――それで最後に、〈君にもらったチョコレート/新幹線から見える/過ぎてく景色好きなんだ〉って、また新幹線の車中に戻っていく。面白い曲だなぁ。
カネコ 嬉しい。これ作ったのはめちゃくちゃ前だから。
――そうなんだ、寝かせてた曲なの?
カネコ あ、でもライヴでたまにやってましたよ。もう1年前ぐらいの曲ですね。
――お客さんの反応は?
カネコ 「好き!」って言ってくれる人、けっこういますね。
村田 私もすごく好きな曲で、アルバムに入って嬉しかった。
――これは名曲でしょう。「セゾン」「光の方へ」「車窓にて」と続くこの3曲でパート3というか、「揺れ動く恋模様三態」みたいな感じがしますね。
カネコ うんうん。でも私は、恋といっても、別に恋人に対するラヴだけじゃなくて、友達やバンドに対するラヴでもあるから、みんなもいろんな人に対してそう思ってもらえればいいな、ってすごく思う。私、友達にも「ホクロが増えた」とかって言うし。
――cinra.netのインタヴューのとき、カネコさんが「私にとっては、恋人と友達と家族にそれほど差はない」って言ってたのが、すごく印象的だった。
カネコ ないです。本当にないですね。すごく大事だけど、全員。そんなに差はないですね。同じぐらい大事だから。みんな、明日死んじゃうかもしれないし。そうなったらイヤだし。
――みんな大事だから、同じぐらい丁寧につきあいたい?
カネコ そうですね。私はそう思ってる。