ボーナス・トーク

全曲解説のパートはここまでだが、曲作りに関して思うこと、レコーディング中のエピソードなど、カットするには惜しい対話をボーナス・トークとして追加させていただいた。盛り上がったライヴのアンコールのように楽しんでもらえたら嬉しい。

――『燦々』って、意外とあっさり終わるんだよね。

カネコ そうなんですよ。今回はLPを先行発売するというのがあったから、レコーディングの時点で「できるだけ40分前半か、できれば40分くらいに収めたい」って話してて、「前半/後半」みたいな括りで曲順をどうしようか、めっちゃ悩みながら考えました。

――曲順はもうこれしかないですよ。ハラハラドキドキしながらあっという間にラストまで来て、「これで終わりかぁ」って思っちゃう。なんか後を引く感じ。

カネコ みんながビートルズを繰り返し聴いてるのって、それなんじゃないかと私は思ってて。曲もすごい短いし、でも全然退屈しないし、めっちゃ聴いちゃいますよね。私は長い曲、できないんですよ。曲を作るとき、自分の中で唯一意識してるのが、「長い曲は作らなくていいや」ってこと。「必ずAメロがあってBメロがあってCメロがあってDメロもあって」みたいなことは、私は全然信じてないから。別に「A-B-C、終わり」でもいいわけだし。「Aメロが絶対2番に来なきゃいけない」ってこともないと思ってるし。「展開がいっぱいないといけない」とか考えてない。シンプルに「A-B、2番、終わり」で別にいいような気がして、それができたらいちばんカッコいいんじゃないかな、って考えてる。

――本当にそう。無理にフックを詰め込んだ“全増し増し”みたいな曲、今のJ-POPに多いよね。

カネコ そうそう。なんか展開がいっぱいありすぎて、「また知らないメロ出てきたよ!」みたいな感じ。

――展開多くしないと不安なのかな? 曲の途中で飽きられるのが不安で、1曲の中に「これでもか!」ってキャッチーなフックを異常に詰め込んじゃうのかも。

カネコ 分かります、分かります。けっこうそういうのが多い。

――それが最近のJ-POPの特徴っていう気がする。

カネコ うん。それが上手な人だったら、たぶん飽きないんですけど、私はそれで自分が飽きちゃうから(笑)。自分でやってて、自分の精神力が持たない。「まーだやってる、私」みたいな感じになっちゃうから、たぶん。だから私は、できるだけ3分台、長くても4分台で収めたいな、っていう思いがありますね。それぐらいがちょうどいい。ライヴでやってても気持ちいいし。「ダーン! 終わりー!」みたいなのが好きだから。

――「間(ま)を聞かせたい」というカネコさんの志向性と、楽曲の短さが、合ってるんだよね。

カネコ そうそう。その短い中に間(ま)がしっかりあって、展開とかフックもちゃんとあって……っていうのが、たぶんいちばんカッコいい。「えっ!? あんなにいろんなところに連れて行ってくれたのに、3分しか経ってないんだ!?」っていうのを、いちばんやりたい。アルバムをトータルで見てもそうだけど、「40分しか経ってないのに、いろんなところに行けたな」っていうのがやりたいですね。このアルバムを録り終わって、本村くんと話してたんですけど、「すごくいろんなところに行けるよね」って。それができたらいいですね、ずっと。1曲目とか、ちょっとそれができたかな、って思ってる。2分台なのに……。

――「花ひらくまで」は2分39秒です。計ってみた。

カネコ (笑)うん、2分半なのにいろんなところに行っちゃってるな、って感じがする。

――「花ひらくまで」は、さっきも言ったように、地声と裏声を交錯させる緩急のつけ方もすごく効果的で、短い尺の中にそういうフックがたくさんあるからね。「こんなに短い曲なんだ!」って、曲が終わって思うけど、聴いている間は、そんなに短いとは思えないぐらい充実感がある。

カネコ そう、そういうのがやりたいな。「布と皮膚」とかも、いきなりホーンが入ってきたり、「なんでフルートのソロなの!?」って思ってたら終わる、みたいな(笑)。

――曲調がまたゆったりしてて、〈行ったり来たりバレないように〉っていう歌詞に寄り添うようにホーンが行ったり来たりするのが、なんとも言えず気持ちいい。〈眠れない夜にそっと 布と皮膚 交互になぞった〉って言うところとか、ホーンのフレーズが感情をなぞってるように聞こえる。

カネコ そう、そこがいいですよね。だから全体を通して、「えーっ! こんなに短かったんだ。この曲で3分なら、めっちゃカッコいいな」って思えたらいいな。これから曲を作っていく上でも、そういうことがやりたい。

――いずれは、このアルバムの全12曲を7インチシングル6枚組にしたスペシャル・ボックスセットを出してほしいな。

カネコ それ、いいっすね~! 7インチだとすごく音もいいし。けっこうギュッとしますよね、そういうの。でもなんか、1曲1曲が短くて、LP1枚でちゃんと聴けて……っていうアルバムは、すごくカッコいいですよね。

――『燦々』も聴き終わったら、すぐにまた最初から聴きたくなる。いや、もう本当に最高のアルバムができたんじゃない?

カネコ ほんとですか! ありがとうございます(笑)。

――すごくヴァラエティに富んでるし、本当に聴き飽きない。昨日一晩中聴いてたからね、ハマっちゃって。

カネコ やった~、嬉しい!

――だから全然寝ないで来た。

カネコ ははは! そうか、今日の取材、早い時間ですもんね。

――いったん眠ったら、もう起きられないと思って、起きているためにも延々と繰り返し聴いてた。

カネコ (爆笑)

――それでも全然飽きない。「こんなに一晩中聴いたら、いいかげん飽きるだろ」ってなっても不思議じゃないくらい何十回も聴いたのに。

カネコ 嬉しい。最高だ! よかったです、本当に。これが無事にできて安心しました。

――レコーディングはどれぐらいかかったの?

カネコ えーと、2週間いってないぐらいかな。「光の方へ」はだいぶ前に録っちゃってたから、新しく録るのは7曲だけだったんですよ。

――今回も“IZU STUDIO”で録ったの?

カネコ 「光の方へ」だけ東京で録って、あとは伊豆スタで。基本、伊豆スタでしかやりたくなくて(笑)。「絶対、伊豆じゃないと無理!」みたいな。ヤスさんがもともと伊豆に住んでて、ハウスエンジニアとして入ってるから、本当に第二の家みたいな感じ。近くに崖があって、気分転換に上って海を見たり。星がきれいで、晴れた日にはめっちゃ見える。夜の6時頃になったら、みんなでスーパーに買い物に行って、ご飯はヤスさんが作ってくれるから、そこでみんなでご飯を食べて、テレビ観てると、けっこう3、4時間ぐらい経っちゃって、「ヤバい! やんないと……!」みたいな感じで(笑)、2週間やってたのかな。

――そういう風にリラックスできる環境って、大事だよね。

カネコ 大事です。東京でレコーディングして、終わったら家に帰って、また次の日に行く、っていうのは、私はたぶん無理。精神的に切り替えるのにすごい頭を使っちゃうから。みんなと合宿して、レコーディングして、みんなでご飯食べて、寝て起きたらもうスタジオ! ぐらいの環境が私にはちょうどいいですね。

――何か手こずった曲はある?

カネコ わぁ、なんでしょう。歌うのが手こずった曲は、「ぼくら花束みたいに寄り添って」と「燦々」ですね。他はもうスルッとできましたけど。あと、「ごめんね」も少々。「燦々」は録り直し無しで録りたかったから、納得できるテイクが録れるまで歌ったっていうのもあるし、「ぼくら~」は地声にするか裏声にするか決めかねる部分だったり、息継ぎがけっこう難しくて。あとあんまりフラットになりすぎるのもイヤだから、私はそんなに細かくは直さないんですけど、それで「あー、どうしよう」ってなったりして。

――そういうときに助け舟を出してくれるのは……?

カネコ やっぱりヤスさんですかね。「一回ご飯休憩とか入れる?」って聞かれても、私はそういうときむっちゃイライラしてるから、「やるよ!」って。負けず嫌いな精神がめっちゃ出て来ちゃうから、「いいです、いいです。今やります!」みたいな感じで、ムキになって、やったりしてましたね(笑)。

――後に延ばしたくないんだ?

カネコ 延ばしたくない。でもそこで一回録って、次の日に聴いてみてダメだったら、録り直したりとかもしますけど。やっぱりできるだけそのときに録りたいとは思って、ずっとやってましたね。でも他の曲はだいたいツルッと。私は、歌入れはたぶん早いから、あんまり長引かず。

――「ぼくら花束みたいに寄り添って」「愛のままを」「燦々」という最後の3曲は、カネコさんのマニフェストみたいに聞こえる。現在のカネコアヤノを表す象徴的な曲の3連発でパート4を締めくくった、という感じがしますね。

カネコ うんうん、「これ聴けー!」みたいな。そうなったなら、よかった! 『祝祭』の次に出るのにふさわしいアルバムになったかな。

――『祝祭』の続篇として、これ以上のものはないんじゃない?

カネコ うん。「これだった!」っていう感じですよね。よかった~。

――今は、サブスクで自分の好きな曲を集めてプレイリストを作ったりして、1枚のアルバムを通して聴くより1曲単位で聴く人が多いけど、この『燦々』というアルバムは、この12曲の繋がりでしっかり聴く、というのがベストな聴き方だと思う。

カネコ そうですね。なんか、ちゃんと物語があって、全体の流れとか、曲間とか、ジャケットの装釘もすごい考えたから、サブスクでもいいけど、できればLPやCDを手に取って、聴いてもらえたら嬉しいですね。

――CDの初回盤には特典でライヴDVDが付くんだよね。

カネコ そうなんですよ。恵比寿リキッドルームのワンマンのときに、ステージの袖から撮った映像が付きます。

――今となっては『祝祭』が少し懐かしく思えない?

カネコ そうですね……1年半ぶりか。すげー! いやぁ、早いですね。年も1歳取ってるわ。(『燦々』の紙資料を眺めて)ジャケ、可愛い~!

――あと、何か訊き忘れたことなかったかな……「布と皮膚」のエンディングで何かシャカシャカいってる楽器が入ってるんだけど、それはなんだろう。

カネコ (曲を流してみて)タンバリンだ。Bobはタンバリン、すごい上手いんですよ。♪チャカチャカチャカチャカ、って。

――本当に今回のアルバムはアレンジがいいよねえ。

カネコ いい。ワクワクする。

――じゃあ、最後に。ぼくがカネコさんの歌を好きないちばんの理由は、自分ではもう失くしてしまったと思い込んでいた感覚を思い出させてくれるからなんだ。「はっ! まだ失くしてないかも」って嬉しくなる。

カネコ そう! 失くしてないですよ! 「失くしてない!」って言いたい。

――「もう終わってんな~」ってときどき思うけど(笑)、カネコさんの歌は「まだ終わってないかも」って思わせてくれるから好き。

カネコ やったー! 「終わってないかも」ってウケる。

――そういう歌をいっぱい作ってくれて感謝しかないです。全曲解説、ありがとうございました。

カネコ こちらこそ、いつもありがとうございます!

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