恋しい日々

――「Home Alone」の次に「恋しい日々」が来ると、ファンは「キターーー!」って盛り上がるでしょうね。ライヴ映えする人気曲。やっぱり〈冷たいレモンと炭酸のやつ 買った〉というフレーズを、みんな好きなんだろうなと思うんです。

カネコ うん、私も好き。ライブで〈冷たいレモンと〉って私が歌うと、〈炭酸のやつ〉って返す人がいるって最近聞いて、私、それを知らなくて!

――カネコさんが仕掛けたわけでもないのに、自然にコール&レスポンスが成立する。まさしくパワーワード、思わず口ずさみたくなりますね。

カネコ すごく嬉しい。「こんな言葉を歌にのせた人っていたかな?」って思ったときに、心がざわついて、(プライドが)ツンツンってくすぐられるんですよね。これを作ったとき、〈買った〉だけがサビになっているのが面白すぎて!

――確かにそんな曲はこれまで聴いたことがないです(笑)。この曲は日常の情景を描写する一行一行がとても鮮やかで、カネコさんが自転車に乗って街を走る姿が目に浮かびますね。

カネコ 夏に自転車に乗るとこんな感じなんだ! っていうのを体感して、走ってる途中でジュース買って飲んだらうまい、それだけの曲を作ろうと。
実は、私は2年前まで自転車に乗れなくて……上京して初めて住んだ家までの道が暗闇だったんですよ。バイトも帰りは夜になるから怖くて、これは自転車に乗って急いで帰らないとやばいかもしれない、と思って。西友でいちばん安い1万円のチャリを買って、一所懸命練習した。めっちゃコケましたもん。ペダル重っ! こんなのみんなよく漕げるなと思って。カゴとかベッコベコになったけど、無事に乗れるようになった。
でも、去年の末くらいにパクられちゃって……こいつはカギかけなくても大丈夫! みたいな謎の信頼があったから、なくなっているのを見たときのショックがすごくて。盗られたのは「グレープフルーツ」のMVで漕いでるチャリで、乗れるようになった直後に撮ったんですよ。2年間の上京生活を共にした思い出のチャリを、今は誰かが乗っている。それとも捨てられているか……。

――愛機を盗まれたショック、分かります。でも、MVに姿を残せたのは不幸中の幸いかもしれない。

カネコ そうですね。こうやって曲が生まれて、新しい感覚も覚えさせてくれて、あのチャリには感謝してます。そういう曲なんですよ。

――2番の冒頭の歌詞で〈短い夜に私たち遊びたい 光って消える 花火みたい〉というラインに込められた、一瞬で消えてしまうこのひと時を大事にしたい、という気持ちがひしひしと伝わってきます。

カネコ この曲を書いた2年前は、友達とよく夜遊びしていて。今よりお酒も飲んでいたし、それがすごく楽しくて。最近はあまり飲まなくなりましたけど、あの頃はタフでした。

――この曲ができたとき、こんなに人気曲になると思ってましたか?

カネコ いや、全然。これは内村イタルくんと自主盤でスプリットシングルを作ることになって(CD『カネコアヤノ 内村イタル』2016年7月発売)、そのために急遽作った曲だし、そのときの歌い方は今よりもう少しスローテンポでした。

――自転車に乗り始めたばかりのような?

カネコ そうそう! 今はめっちゃ速いテンポで、バイクには負けないから! みたいな感じだから全然違う。バンドで合わせて、気づいたらこういうアレンジになっていた。こんなに人気が出るなんて、思ってなかったですね。

――すごく良いアレンジだと思いますが、どういう風に決めたんでしょう。

カネコ これはまだドラムがBobじゃなくて、エンジニアをやって下さっている濱野泰政さんという方がドラムだったときにできたんですけど、「ジャンジャンジャンジャンって(四拍子の)ギターのストロークで始まるから、ストレートにバカみたいな感じでやろう」って最初に言って、スルッと生まれた感じ。なんでもない曲を作ろう、という意識はありましたね。

――〈なにかしようと思ったけれど忘れた/忘れたら思い出した/今日は雨が降るから〉というDメロの歌詞がアヤノさんらしい意識の飛び方で面白い。その次の2番の始まりから〈洗濯物をいれなくちゃ/未読の漫画を読まなくちゃ/恋しい日々を抱きしめて/花瓶に花を刺さなくちゃ〉と、これからやろうとしていることを列挙するだけで盛り上がるのが最高ですね。ありふれた毎日のようでいて、やることはいっぱいあるよ、って一個一個思い出して愛しさを込めるところが素敵だなと。そういえば、この曲にも花瓶が出てきます。

カネコ ほんとだ! 今気づいた。「Home Alone」とそこが繋がってる。

――繋げようと意識して「花瓶」という言葉を入れたとばかり思っていました(笑)。

カネコ 「ほんとだ!」とか言って(笑)。さらにその曲順にしてよかった。

――映画のシーンが転換していくように、「Home Alone」から「恋しい日々」へと場面が移る。

カネコ うん、物語っぽい。今、自分で腑に落ちた。「恋しい日々」が1曲目で「Home Alone」が2曲目に来てもいいけど、ずっと違和感があったんですよ。ああ、嬉しい。これは嬉しいわぁ!

――〈明日のめざましかけなくちゃ〉というフレーズで「恋しい日々」が終わって、3曲目の最初のフレーズが〈朝はエメラルド〉だから、完璧に繋がっていますよ。

カネコ ほんとだ! すごい(笑)。

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