エメラルド

――「エメラルド」もグッとくる曲で、このアルバムは冒頭3曲の流れが素晴らしいですね。

カネコ 前に住んでいた家はカーテンがエメラルドグリーンで、壁が白壁だったんです。日本の古い家屋で、畳敷きで天井が高くて、角部屋だったから大きな窓が二つあって、片方から漏れた光がカーテンに反射して、真っ白い壁が少し緑がかって、すごく綺麗だった。だからこれは本当にうちのことなんですけど、〈朝はエメラルド〉っていう言葉は綺麗だし、歌い出しの1行目としてとても気に入っています。

――綺麗な朝を迎えて、気持ちも透き通っている。ここからどういう風に展開していくのかと思ったら、〈考えてみても仕方がないことばかりだね〉っていう。

カネコ 私は未だに「誰かにこう思われているかも」とか、すごい過去のことをずっとウジウジ考えちゃうんですよね。本当にどうでもいいことなのは分かっているんだけど、やっぱりそういう出来事って、その人を作っている一つの要素だと思うから……。

――せっかく気分よく起きられたのに、ふっとそういうネガティヴな思考が忍び寄ることってありますよね。

カネコ うん、ありますね。やたら早く起きちゃって、まだ寝られるのにそういうことを考えて眠れなくなることもいっぱいあるし。もう、そんなことばっかですよね。

――この曲には祈るような気持ちもそこかしこに込められている気がします。〈隙間から見える横顔よ どうかそのままで〉とか、〈星の一つにも 今の私ならなれるよね〉とか。

カネコ あれこれ考えても仕方ないから現状を見よう、というのが今の私の気持ちですね。

――〈忘れられないよ/内緒のふたりになった日を〉というところで、みんな相当グッとくるんじゃないかと。今がどうあれ、恋人たちが心のどこかで大事にしている気持ちだと思うから。

カネコ そう。今がどうあれ、こうだったときがあったよね、って。全部の曲がそうなんですけど、ふっと見える一瞬の幸せが、そのままであればいいはずなんだけど……。

――ずっとそのままでいてほしいけど、悲しいことに人は変わってしまう。

カネコ そう、そうなんですよ。だから仕方ないんですけど……私もずっと優しくしているから、いつまでも私に優しくして、っていう気持ちがすごくありますね。

――祈りも願いも入っているんですね。〈帰る頃には朝焼けでも見ようよ〉っていうことは、朝帰りの途中で〈大切なのは君との明日〉だと前向きな気持ちになって、〈明日会えるね それだけで嬉しいよ〉って、最後にちょっと心を持ち上げて終わる。

カネコ うん。私、大丈夫っていろんな曲で言っているけど、大丈夫になって終わりたい、なんでも。

――海外のロックでも、何かと〈It's all right〉というワードが歌詞に出てきますよね。〈But it's all right〉、「だけど大丈夫」って人類共通の気持ちだから、それをロックに託すのは基本だと思う。

カネコ そう、歌ってそういうものじゃないかと思う。(甲本)ヒロトさんだって〈ガンバレ〉って言っているし。

――日本語のロックで〈ガンバレ〉と歌ったのは発明で、「人にやさしく」を最初に聴いたときはびっくりした。

カネコ 私も初めて聴いたときびっくりした。〈気が狂いそう〉で始まるのに……本当に美しい曲ですよ。ああいう曲が書けたらいいな。あれが本当に真理だなと思っていて。曲を聴いて元気になれる方がいいに決まってるし。

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