序章

――次の「序章」は今年の1月にカセットシングルで出した曲。これもすごく好きで、このアルバムに欠かせない曲だと思います。〈教えてくれたね 蟻の巣の近くに置いた角砂糖 朝には無かった〉、これも本当に素晴らしいフレーズ。鮮明に光景が浮かびます。

カネコ 嬉しい。やった! 小さい頃に、蟻が頑張って何かを運んでいるのを見るのがすごく好きだったんです。この曲を作ったときのことではないけど、この間、高井戸で桜を見ていたら蟻の巣があって、そこに桜の花びらが落ちていて、1匹の蟻がそれを折り畳んだりしながら頑張って運んで、巣から出て来られない仲間を救出していたんですよ。それで書いたんだろうな……でも、なんでこの曲で蟻が出てきたんだろう?

――自分でも分からない? きっと直感で頭に浮かんだ光景なんだろうな。その後に〈悪魔の仕業さ 世界のことなんか知りたくなかったのに〉という一節が来るのが、すごく効果的。

カネコ いろんな人に会う機会もいっぱい増えたし、知りたくなかったこともいっぱいあるし。

――見たくなかったこともたくさん見てしまう?

カネコ それはありますよね。知識が増えるということは、ちびっ子のときに見えていたものが見えなくなることとイコールだと思うから。でも、知識が増えると誰かにしゃべりたくなる、ということを美しいと解釈するしかないっていうか……誰かに話したくなるなら、それはまた新しいトキメキだし。全然悪いことではないと思いたい。

――でも、〈悪魔の仕業さ〉と言いたくなっちゃう。これは強いフレーズだけど、この言葉を持ってきたのはなぜ?

カネコ なんでだろう……。

――スッと出てきた言葉なの?

カネコ たぶんスッと出てきたと思う。「知識が増えるほど○○したい」ということをすごく歌にしたかったから、それを当てはめるための前の2行を考えて入れた感じかな。このサビの詞は気に入ってますね。

――〈だけどなんでかな 無性に腹がたって涙がでてきた 星がでているからか〉、これもすごく印象的なフレーズで素晴らしいなと。

カネコ その方が綺麗ですよね。私は最後の〈知識が増えるほど 優しく笑っていたいとイライラ思っているよ〉というところが気に入っていて。

――腹が立ったりイライラしているんだけど、そういうネガティヴな感情に囚われたくないという気持ちを歌にしているんですね。

カネコ できるだけ怒ったりしたくないのに、機嫌斜めになっちゃうことがあって。誰かの悪口を言うのはすごく馬鹿げているし、実際にそんなことを言っているからダメなんだ、と実感してからは、どうでもいいことでイライラしなくなったけど。常日頃、本当にやさしくいて、笑っていられたらいいんじゃないかなって。笑っていたら楽しくなる、と思うようにしてるから。

――意識的に口角を上げてみよう、と。

カネコ そうですね。それは本当に自分の中で意識が変わったところで、この2年間で本当によく笑うようになったと思う。

――それ以前はあまり笑えなかった?

カネコ 全然笑わないというわけではないけど、今みたいな感じでは笑わないですね。写真に写る表情がすごく変わったと思う。昔の写真は笑顔のものがあまりなかったですね。愛想がなかった。2年前にそれまで所属していた事務所を辞めるときに、他人の悪口ばかり言っていても仕方がないし、ゲラゲラ笑っていようと決心してから、外にいるときだけじゃなくて、家にいるときの過ごし方も変わったと思う。

――そういうふうに意識が変わったきっかけが何だったか分かりますか?

カネコ 今、オフィシャル写真を撮ってくれている木村和平くんと一緒にやるようになってからすごく笑うようになりました。和平くんと最初にやった『さよーならあなた』は普通のアートワークなんですけど、『ひかれあい』のとき笑顔の写真にしたんですよ。それがキーになっているかな、と私はちょっと思っていて。

――木村さんに「笑ってみて」って言われたの?

カネコ 和平くんとはもともと仲良くて、ゲラゲラ笑っておしゃべりしながら撮影していたらそういう写真になって、よかった~、こういう方がいいな、と思ったんですね。「とがる」のMVでも結構ゲラゲラ笑っているし、自分で言うのは変ですけど、人間としてこういう方がキュートじゃん、って。そういえば明るい人に憧れていたな、だったら自分で無理矢理にでも笑顔でやってみようと決めたら、本当にすごく顔つきが変わったと思う。私にはアー写(オフィシャルに撮影するポートレート写真)を撮る機会があるから、本当にラッキーだったなって。小さい頃はカメラも見たくなかったし。

――写真を撮られるのは苦手だった?

カネコ 写真に撮られるのが大嫌いだったし、人と話すのも苦手だし、極度の人見知りでしたね。

――この曲を「序章」と名づけたのはどういう意味があるんでしょう?

カネコ 「序章」という言葉とか、小説の初めにあらすじを置く感じがすごく好きで、曲のタイトルにしたいとずっと考えていたんです。これをカセットで出すことになったときに、「序章」というタイトルなら単純にカッコいいなって。小説の1ページ目を開いたとき、この曲の詞が書かれていたら、すごく素敵だなと思って。ここから物語が始まっていくと想像したら、ぴったりな気がしてつけました。

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