――その次の「ゆくえ」は、いつ頃、何がきっかけで生まれた曲なの?
カネコ なんだろう……。「とがる」の後に作ったから、できたのは1年前くらいかな。
――「ジェットコースター」の話にもつながるけど、〈のびのびしたい 都会の真ん中 ほんとうはしたい 街中口づけ〉という1番の歌詞とか、東京で暮らしながら感じている正直な気持ちをそのまま書いているんだろうな、と。
カネコ ほんとですよ。
――その次の〈ぼくたち動物なんのために生きるかなんて 今日決める〉という一節は、人間だって動物なんだから、猫や犬みたいに素直に行動すればいいのに、ということ。
カネコ そう、したいことをしていいんですよ。これは本当に全部がつながっている歌詞で、〈抱き合う服の皺がぶつかる交差点〉というラインに「みんな分かる? 見て!」みたいな気持ちを込めたのと、あとは「家庭訪問」という言葉をすごく使いたかったんですよね。
――〈家庭訪問 今日は大丈夫 話をしたい〉という、この一行はなんだろう?
カネコ ほんとですよね……何の曲なんでしょう? 歌詞の中で言ってることは気に入っているし、一個一個箇条書きする! みたいなテンションで書いた感じかも。
――恋愛の渦中にいる歌でしょう?
カネコ そうですね。
――〈あなたの4分の3まででもいいから知りたい〉というラインが素晴らしいな。相手のことをどんなに知りたくても、全部を分かろうとしても無理だから。
カネコ そうそう。全部は探らないけど、少し教えてください、っていう気持ちですね。
――好きな人に対して秘密は持ちたくないと思う?
カネコ 私はどうなんだろう……私には、秘密はあまりないかなぁ。全部相手に言っちゃうんですよね、本当に。浮気とかしたら、顔に出るんじゃないかな。隠すのは……たぶん無理だと思う(笑)。やっぱり秘密はないですね。でも、相手に秘密があっても仕方がないかな、って思う。秘密があることは知りたくないけど、あっても何も言えないな。
――バラバラなフレーズの連続に見えて、全部つなぎ合わせると分かる、という感じかな。1番でも2番でも最後のラインで〈今まで ほんとうこわかったよね〉と言っているのは、いつもどこかに恐怖心を抱えていて、それをどうにかしてなだめたいという気持ちが強い?
カネコ 何に対して、という明確な対象があるわけじゃないけど、基本的に怖いんです。これは自分に「怖かったよね」と言っているわけではないけど、〈こわかったよね〉の後に「もう大丈夫ですよ」って優しく言ってほしいとすごく思う。何かに対する恐怖心は、たぶんずっとあるんだろうな。
――だからこそ安心させてほしい、と。
カネコ そういう気持ちですね。でも、やっぱり無理ですけど。ずっと不安ですもん。ウサギみたいに常にプルプルしてる。ほんとそんな感じですよ。
――そういう正直な気持ちを歌にするのは、かなり勇気が要りませんか?
カネコ でも曲にしていかないと、逆に(不安が)溜まっていっちゃうから。歌うことによって自分をなだめる、ということが一番の解決策なのかもしれない。
――シンガーソングライターになってよかったですね。
カネコ 悩みを吐き出す場所があって本当によかった。曲を作る術がなくて、普通に就職していたら、たぶん精神的な病気になっていたと思う。
――曲を書いて、それを人前で歌うことは、カネコさんにとってセラピーなんですね。
カネコ そうですね。以前の事務所を辞める前に、ある人に言われたんです。「自分で考えた詞を人前で歌うなんて、ちょっとどうかしているんだから、どうせやるなら最後までやり通しなさい」って。本当にその通りだな、って勇気が出る一言でした。自分の思いを歌にする資格があるかどうか、自分で決めるしかないんだよ、って背中を押してもらった気がして、「よし、やり通すぞ!」という気持ちになった。その言葉は今でもズシッと残っています。
――この曲は『祝祭』の中でもいちばん生々しい感じがするし、「ロマンス宣言」の次に超リアルな真情を吐露する「ゆくえ」が来ると、そのギャップにドキドキします。
カネコ 確かに生々しいですよね。弾き語りだし音小さいし。今回のアルバムの中では、こういうタイプの曲はこれしかないから、入れられてよかったと思う。